インレイ(象嵌):マルケットリー
イギリスのインレイについてご紹介します。
インレイ(inlay)とは日本でいう象嵌(ぞうがん)を指し、土台となる素材に別種の素材を埋め込んで模様を描く装飾技法の総称です。
木工・金属・陶象嵌の技法、螺鈿(漆器に母貝の真珠層)、寄木細工や寄木張り(パーケットリー:現代のフローリングの先駆け)もインレイの一種に数えられます。
今回紹介するのは17世紀に登場したインレイの一つで、ベースとなる木材に異なる種類の素材を埋め込むマルケットリー技法。
「マルケットリー」自体は現在でも作られることがあるため素材などの定義が曖昧な部分もあるのですが原則として、
・ベースは木材
・上記のベースとなる材に溝を掘り、板状にした素材(木材、金属、石、骨材、象牙、鼈甲、母貝など)を落とし込んで象嵌する
の2点が挙げられます。
数あるインレイ技法の中でもかなり繊細な模様や、絵画的な画面を作ることもできるのがマルケットリーの特徴です。
オランダからイギリスへこれらの技術が持ち込まれたのはウィリアム&メアリー(1689〜1694)の時代ですが、もともとはイタリアのフイレンツェ共和国でルネサンス期に復刻された古代の技法でした。
大陸からもたらされたマルケットリー技法はインレイヤー(inlayer)と呼ばれる専門の職人とともにロンドンを中心に活躍した家具師たちによって磨かれ、18世紀当時のイギリス家具に欠かせない要素となります。
産業革命後、インレイ装飾の施された家具類の生産は下火となりますが、エドワーディアン(1901〜1910)にリバイバルが起こったため、20世紀初頭のアーツ・アンド・クラフツ~1930年代頃の家具類に多く見ることができます。
先日補修した家具のうち、インレイ装飾があるものは2点。椅子の背面部分とセンターテーブルの天板にそれぞれ施されていました。
こちらの椅子は真鍮のインレイが一カ所失われているため、真鍮の板を切り出して埋め込み補修します。
取り付けをする所がフレームの角の部分なので、曲げ具合等の調整が難しい所です。
完成!左右違い無く、同じように修復することができました。
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