映画「ホリックxxxHOLiC」の舞台美術
先日公開された映画「ホリックxxxHOLiC」
2003〜2011年に掛けて週刊誌で連載されていた同名の漫画の実写映画化なのですが、原作が連載漫画=一色刷であることに加えて、切り絵のように削ぎ落とした演出が特徴であり、色彩に関しても黒を基調とした色数の少ないメリハリのある表現をだったことに対し、極めて耽美で色鮮やかな仕上がりの映像作品になっています。
ゲキ×シネのようにエモーショナルで、演者の挙動や表現の印象が鮮烈である一方、原作では視覚的に言及されていない舞台上の小道具や空間を補完するという点に於いて、監督の蜷川実花さん始め美術デザインを手掛けたプロジェクトチームの奮闘と創意を感じることが出来ます。
なかでも実際にアンティーク家具やコレクタブル・アイテムを舞台に配した ”台所” 。
19世紀ヴィクトリア朝期のリビングルームやダイニングルームからのインスピレーションを感じる、贅沢に再現された一室に仕上がっています。
※↓以下、ネタバレを含みます。
この【ミセ】、作中では主役の一人にして物語の狂言回しであるミステリアスな美女、壱原侑子(演:柴咲コウ)の住処として千変万化の様相を晒すのですが、不老の魔女として存在し続ける彼女の設定を体現するが如く、住人相応に浮世離れした豪奢なインテリアで構成されています。
【ミセ】内にある通称 ”台所”(リビング・ダイニングルーム)の一画
大きな縦長ステンド格子の採光窓からさし込む目映い光。部屋全体に及ぶ植物の枝葉と混じり合って、瑞々しい印象です。
満載の緑の合間にはシノワズリ(東洋趣味)の花壺など調度品が並んでいますね。
一般家庭でリビングに鉢植えの観葉植物を飾る習慣はヴィクトリア朝期に普及しました。同様に動植物を鑑賞して楽しむアクアリウムやテラリウムも、イギリスではヴィクトリア朝期に登場し、発展した趣味です。
上:観葉植物をふんだんに配したヴィクトリアン・スタイルのダイニング・ルーム(部分)
下:ロート・アイロン(錬鉄)製のフレームで構成されたガラス張りの植物温室
※ 写真はいずれもイギリス、ロンドンのケンジントンに現存するヴィクトリア・ハウス(1870年建造)の写真。
【ミセ】のダイニングの一画には、同じくヴィクトリア朝期に流行した飾り皿=ガルニチュールも飾られています。
暖炉の上などを飾るマントルピースとして一揃いの絵皿や対の花壺、キャンドルスタンドを並べて飾るガルニチュール。ブルー&ホワイトのボーンチャイナ(骨灰磁器)もその典型といえます。
部屋の中央にはフラワーアレンジメントをあしらったセンターピース付きの重厚なダイニングテーブルが。
作中で侑子とミセの住人であるマルダシ(演:DAOKO)とモロダシ(演:モトーラ世理奈)が席について食事をするシーンがありますが、こちらで侑子が腰掛ける一際背の高い椅子。
恐らく、スコットランドの建築家・画家のチャールズ・レニー・マッキントッシュ(1868-1928)がデザインしたハイバック・スツールの復刻品(リプロダクション)でしょう。
オリジナルはチャールズ・マッキントッシュとその妻、画家/デザイナーであるマーガレット・マクドナルド・マッキントッシュ(1864-1933)両人のパトロン(後援者)であったクランストン夫人(Catherine Cranston:1849-1934)の為に、上述のチャールズによって特別にデザインされた椅子です。
クランストン夫人がスコットランド首都グラスゴーのアーガイル通りに構えていたティールームで使用するダイニング・チェアとして、今から遡ること120年以上前、1897年頃に第一号が造られたと云われています。
また、マッキントッシュが懇意にしていたウィーン分離派※(Wiener Secession:セセッション)の展覧会(1900年開催)に出品されたことでも知られています。
写真上:1900年ウィーン分離派展に出品された一脚。銀色に塗られています。
写真下:同パターンの色違い。イギリスのプライスガイド表紙より抜粋。
※ウィーン分離派:オーストリアの首都ウィーンを中心に展開され、ヨーロッパ美術界に大きな影響を与えた芸術運動。グスタフ・クリムト、エゴン・シーレなど数多の著名芸術家が参加していました。
1850年代頃の上流階級のファッションで着飾ったクランストン夫人(1903年撮影)
この椅子を贈られたクランストン夫人、19世紀末~20世紀初頭にスコットランドで活躍した辣腕経営者で、グラスゴーを拠点に当時最新の流行(上述のウィーン分離派やアーツ・アンド・クラフツ)を取り入れたティールームを展開・経営し、彼女がプロデュースした一群のティーハウスは「クランストン夫人のティールーム(Miss Cranston’s Tearooms)」と呼ばれていました。
マッキントッシュ夫妻や建築家ジョージ・ウォルトンがデザインしたティーハウスは内装調度は勿論のこと、清潔さ・ファッション・食事の質など あらゆる点において他と一線を画しており、スコットランドのみならずイギリス全土でも有数のクオリティーを誇っていたそうです。
単なる食事処ではなく、芸術に囲まれた社交の場としての「ティールーム」を形作った人物であると共に、当時のグラスゴーをアート・プロデューサーとして盛り立てた実業家の筆頭といえます。
名実ともに堂々たる女主人という点で、作中の壱原侑子と通じるところがありますね。
映画「ホリックxxxHOLiC」ストーリー上ではほぼ触れられていませんが、このように舞台美術にも制作陣のこだわりと尽力が詰まった作品です。
※当店からはこちらのデコラティブな12灯シャンデリアをリース使用していただきました。
【ミセ】台所の天井に掛かっています。
映画「ホリックxxxHOLiC」 公式HPリンク
「ホリックxxxHOLiC」
神木隆之介 柴咲コウ
松村北斗 玉城ティナ
趣里 / DAOKO モトーラ世理奈 / 西野七瀬 大原櫻子 てんちむ / 橋本 愛
磯村勇斗 吉岡里帆
原作: CLAMP「xxxHOLiC」(講談社「ヤングマガジン」連載) 脚本:吉田 恵里香
音楽:渋谷 慶一郎 主題歌:SEKAI NO OWARI 「Habit」(ユニバーサル ミュージック)
監督:蜷川 実花
<STORY>
人の心の闇に寄り憑く“アヤカシ”が視える孤独な高校生・四月一日(わたぬき)。
その能力を捨て普通の生活を送りたいと願う四月一日は、ある日、一羽の蝶に導かれ、不思議な【ミセ】にたどり着く。
妖しく美しい女主人・侑子(ゆうこ)は、彼の願いを叶えるかわりに、“いちばん大切なもの”を差し出すよう囁く。
同級生の百目鬼(どうめき)やひまわりと日々を過ごし“大切なもの”を探す四月一日に、“アヤカシ”を操る女郎蜘蛛らの魔の手が伸びる。
世界を闇に堕とそうとする彼らとの戦いに、侑子や仲間たちと共に挑んだ四月一日の運命は―?!
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