アンティーク アポテカリーボトル&ジャー
1940年代頃まで、ヨーロッパの薬局で取り扱われていた薬は植物のエキスを溶かし込んだ液剤、乾燥ハーブ、丸薬など、植物由来の生薬(しょうやく)がほとんどでした。
写真の品々も、そういった生薬の容れ物としてヨーロッパで作られ、薬局や病院、ハーバルショップで使用されていた品物。
西洋医学と東洋医学の別なく、こういった医薬系のアンティークやヴィンテージアイテムは「アポテカリー(薬種問屋・薬局)グッズ」と総称されます。
アポテカリー・グッズは作られた時代の世情や医学の常識、庶民と医療の関わりを透かし見ることができる貴重な資料でもあります。
特にガラスのアポテカリー・グッズは品目も多岐にわたり、かつてガラス製品の工場制手工業が今より盛んだったことも手伝って、職人の手によって用途別に作られた様々なガラス容器、薬研(すり鉢)、調合器具などが作られました。
写真はそれぞれ、フランスで使われていたアンティークのチンキ剤ボトル(中央)、手吹きガラスのキャンディー・ジャー(左)とデキャンタ(右)。
手前の陶器製キャニスターはイギリスで20世紀後期に復刻された蓋つきのハーブ・ジャーです。
精製技術が向上し、純度の高い製薬が可能になるとともに、薬物・薬学にかかわる規格・規範が国際基準で画一化されはじめたのは20世紀半ば以後。(とは言え現代でも国が変われば基準も変わる点は多々有りますが)
そのためそこまで時間を経ていないアポテカリー・グッズであっても現在の私たちの目から見れば見慣れない、珍奇な品物も多くあります。
一例を挙げてみましょう。
まず真ん中のフランス製のガラスボトルなのですが、少し変わった外見をしていますね。
こちらの正面に貼られているラベル。
黒い十字の真ん中に、蛇の巻き付いた杯(さかずき)が描かれています。
これはギリシャ神話の医術の神アスクレピオスの娘で薬学の神であるヒュギエイアが持っているとされる、その名も「ヒュギエイアの杯」。
古来よりヨーロッパで薬局(ファーマシーもしくはアポテカリ―)のシンボルマークとして使われてきました。
その下にはフランス語で「バレリアン・チンキ」の文字が書かれています。
つまりこのボトルはバレリアン(カノコソウ)から作ったチンキ剤(酒精やお酢に薬草を溶かしたエキス)の容れ物だったという訳です。
(カノコソウには様々な薬効があるといわれていますが、特に不眠症に対し処方されていたそうです)
このボトルはガラス職人の手による手吹きガラスで作られており、底部にポンティル・マーク(ガラスを延べ棒から切り離した際に出来る切断痕)が確認できます。
ラベルも大量生産のゴムラベルが普及する以前、刷毛塗による糊(のり)接着を施したラベルです。
今となっては高価な手作り(工芸ガラス)のボトルですが、機械による大量生産が導入される以前、腕のいい職人を抱えたガラス工房は数多く存在し、このような型(プレスモールド)を使っていない手吹きガラスのボトルが主流でした。
それぞれに謂れやバックグラウンドがあり、調べてみるとなかなか面白いものです。
画像の商品は藤沢ウェアハウスとオンラインショップで販売しています。
Back to Page