不思議なポット CADOGAN POT カドガンポット
イギリスから来たとても不思議なポット。
19世紀中頃にイギリスの窯元コープランド社(現在のスポード社)が作ったポットです。
お気づきでしょうか…なんとこのポット、蓋(フタ)がありません。
そして裏返してみると…
なんと、穴が空いています。
これでは中身が漏れてしまいますよね。
というより、蓋がないのでどうやって液体を入れるのでしょう?
試しに注ぎ口から水を入れてみました。
底から水が漏れだすと思いきや、一滴も漏れてきません。
結構な量の水を入れてみましたが底の穴から水が出てくる事もなく、ポットの中からはちゃぽちゃぽと水で満たされている音が。
取手を持って傾けると、注ぎ口から水が出てきます。
試しにひっくり返して底の穴から水を入れたところ、どんどん入ります。
たっぷり入ったところで元に戻して置いてみても、やっぱり底の穴からは水が漏れる事なく、傾けると注ぎ口から問題なく水が出てきました。
このポット、その名も「カドガン・ポット」と呼ばれています。
17世紀後半から18世紀前半にイギリスの貴族、カドガン伯爵のティーポットコレクションの中にあった、中国(清代)のワインポットがモデルとされており、伯爵の名前を取って「カドガン・ポット」と名付けられたそうです。
(伯爵夫人が中国旅行から持ち帰った、或いは来客時に好んで使用していた、とする説もあります)
ちなみにイギリス以外では「パズル・ポット」の名で知られています。
この時代(17世紀~18世紀)は清教徒革命の余波が徐々に落ち着き、王侯貴族が力を取り戻す過程にあった時代です。家具工芸史においては貴族的で優雅なデザインが好まれていました。
カドガン・ポットのモデルとなったワインポットがイギリスに持ち込まれた当時、今日「ハイ・ティー」の名で知られるイギリスの紅茶文化が育まれている最中のイギリスにとって、陶芸と喫茶文化の先進国であった中国由来の製品は上流階級の人々の間で珍重され、もてはやされる存在でした。
また、このポットの仕組みは典型的なチャイニーズ・パズル※の一つとして知られ、これによってカドガン・ポットは東洋の神秘を体現するアーティファクトとしても愛されてきました。
最初にパズル・ポットがヨーロッパに紹介されて以来、こちらのポットを作ったイギリスのスポード社のみならずヨーク州やスタッフォード州の名だたる窯元や、マイセンなど国外の著名な陶磁器窯元もこの不思議な仕組みを持つポットを生産しており、(決して多くは有りませんが)今日にいたるまで洋の東西を問わず世界中でパズル・ポットが生産されているようです。
非常に個性的で、魅力的なコレクタブルアイテムだからでしょうか。
そもそも昔の中国のワインポットが何故、何の為にこのような形なのか…密閉されているため、酸化しにくいのかも?あるいは温かい飲み物を入れると冷めにくいのかな?と、いろいろ考えてしまいますね。
写真のカドガン・ポットは藤沢ウェアハウスで展示販売しています。
※「箱の中の箱の中身」という意味の言葉。難解で複雑な問題のこと。
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